夭逝の傍証

第二章 景色の章

ヘリコプターに吊されたまま見下ろす街の姿は新鮮だ。今まで見えなかった都市の連続性に目を奪われる。
通勤でいつも通っているあの曲がり角、あそこにはあんな建物が建っていたのか。おや。たばこ屋の二階から伸びている非常階段が駅ビルと繋がっているぞ。いやあ。知らなかった。あそこを通れば近道ができたのに。度重なる建て増しと改築のせいで旧館新館別館がごちゃごちゃとひしめいている老舗デパート、敷地内に一ヶ所なにも建っていない空き地がある。あそこの空き地にはどうやって行くのだろう。なんとどこからも行けないぞ。周り全部がビルの壁に囲まれている。屋上から飛び降りる以外にないのか。そういえばあの空き地の中央、何かがこんもりと盛り上がっているなあ。何だろう。カラスがたくさん群がっているようだな。
地上から目を転じて遠くに見える山と空を眺める。山が見えるなんてなかなか乙なものじゃないか。
空と山の境界あたりにいくつかの空飛ぶ円盤が旋回している。おやおや。あんなものまで飛んでいるのか。きらきらして綺麗だな。薄い雲が何層にも重なり、それぞれが独立した水平線に見える。複数の消失点を持つ異次元の遠近法の世界を、小さな鳥や円盤が無目的に飛び待っており、その純粋さに感動を覚える。
このきれいな眺めはなんだのだろう。なぜこんなにも世界が生き生きと見えるのか。空を飛んでいるからか、死にかけているからか、ひょっとしてもう死んでいるからなのか。